東京の運河の汚さは?海水は入り込んでいるの?
今回は、品川駅周辺の高浜運河の溶存酸素濃度および栄養塩濃度、吸光度を測定することによって、海水と真水の構造、栄養塩を利用して植物プランクトンがどの程度発生して水が汚れているのかを調べた。
【目次】
【実験器具・試薬】
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現場用
水温・塩分・DOセンサー、温度計(気温用)、採水器、DO用ガラス瓶、DO固定用硫酸マンガン溶液、DO固定用アルカリヨード溶液、DO固定用オートマチックピペット、PO43-用ポリエチレンビン、純粋用洗瓶、キムタオル、ラベル用ビニールテープ、ハサミ、カッター、カッター板、
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実験室用
DO用コニカルビーカー、DO用ガラスピペット、DO用ガラス棒、DO用6M塩酸、DO用チオ硫酸ナトリウム溶液、DO用でんぷん溶液、DO用滴定装置、PO43-ろ過シリン酸塩ジ+チューブ、PO43-ろ過用シリン酸塩ジフィルター、PO43-用ポリプロピレンビーカー、PO43-発色用目盛り付きポリプロピレンチューブ、PO43-用混合試薬、PO43-用分光光度計、PO43-用オートマチックピペット、純粋洗瓶、ピンセット
【調査方法】
-
現場作業
- 採水点での調査開始時刻、天候、気温を、ノートに記録した。
- 採水器を水中に沈め採水を行った。
- 採水器の中にセンサーを入れ、水温・塩分・溶存酸素の測定を行った。
- その後、採水器側面のチューブからガラス瓶に並々に注ぎTAに手渡した。
- ポリエチレン瓶に残りの採水した水を注いだ。
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実験室作業
- PO43-用に採水した試料水をろ過装置でろ過し、ビーカーに集めた。
- オートマチックピペットで5mlを発色用目盛り付きポリプロピレンチューブに入れ、純水で6倍希釈した。
- 希釈した試料水に発色試料を3ml加え撹拌し、30分ほど放置した。
- 放置した後、分光光度計を用いて波長885nmでの吸光光度を測定した。
- PO₄³⁻を測定するための試料を放置している間に、DO用ガラス瓶沈殿があることを確認し空気がなるべく入らないよう気を付けながら栓を外し、上澄み液を5ml程度コニカルビーカーに移した。
- 6M塩酸2mlをDO用ガラス瓶に加え、ガラス棒を用いて沈殿をすべて溶かした。
- DO用ガラス瓶に入った試料を、すべてガラス棒をつたわせてコニカルビーカーに移し、栓やガラス棒、ガラス瓶などに付着した試料水も純水を用いてすべて洗い入れた。
- 滴定装置を用いて、コニカルビーカーに入った試料水を0202Mチオ硫酸ナトリウム溶液で滴定し、黄色が薄くなってきたら、でんぷん溶液を約1ml加え溶液が透明になるところを終点とした。
【結果】
-
採水場所
採水した場所は以下の写真①のSt.1からSt.6の打点の通りである。
(写真①)
-
センサー測定結果
採水時のセンサーによる測定結果は以下の表①の通りであった。
(表①) |
採水時刻 |
天候 |
気温(℃) |
塩分(ppt) |
DO(mg/L) |
水温(℃) |
DO% |
水深(m) |
|
St.1 |
表層 |
14:08 |
小雨 |
22 |
5.2 |
5.04 |
23.1 |
60.2 |
データなし |
底層 |
14:21 |
22 |
21.0 |
3.17 |
19.0 |
38.7 |
1.6 |
||
St.2 |
表層 |
14:40 |
小雨 |
21.6 |
4.3 |
5.0 |
23.0 |
59.4 |
データなし |
底層 |
14:45 |
21.6 |
21.5 |
2.82 |
19.1 |
34.5 |
3.0 |
||
St.3 |
表層 |
15:00 |
くもり |
21.8 |
6.3 |
5.47 |
22.1 |
65.0 |
データなし |
底層 |
15:05 |
21.8 |
16.4 |
3.55 |
20.2 |
42.9 |
1.5 |
||
St.4 |
表層 |
データなし |
データなし |
21.5 |
9.8 |
5.90 |
21.6 |
データなし |
データなし |
底層 |
21.5 |
25.7 |
2.70 |
20.1 |
|||||
St.5 |
表層 |
21.7 |
9.5 |
5.8 |
21.5 |
||||
底層 |
21.7 |
25.1 |
3.63 |
20.6 |
|||||
St.6 |
表層 |
22.0 |
17.4 |
6.50 |
20.4 |
||||
底層 |
22.0 |
27.8 |
4.60 |
20.9 |
-
実験室でのDO測定
DOを測定するために滴下したチオ硫酸ナトリウム溶液の量と滴定結果は以下の表②の通りであった。
(表②) |
ガラス瓶の容積(mL) |
滴下量(mL) |
備考 |
|
St.1 |
表層 |
96.530 |
2.870 |
|
底層 |
96.306 |
1.990 |
過剰に入れた可能性あり |
|
St.2 |
表層 |
97.245 |
3.134 |
|
底層 |
99.719 |
0.928 |
こぼして容積減った |
|
St.3 |
表層 |
100.179 |
3.172 |
|
底層 |
98.767 |
2.194 |
|
|
St.4 |
表層 |
101.273 |
2.872 |
|
底層 |
101.986 |
1.293 |
|
|
St.5 |
表層 |
104.202 |
3.029 |
|
底層 |
104.772 |
1.368 |
|
|
St.6 |
表層 |
101.293 |
1.734 |
|
底層 |
97.925 |
0.978 |
|
したがって、滴定から求められるDO濃度は、0.0202Mのチオ硫酸ナトリウムの滴定量をnml、DO用ガラス瓶の容積をvmlとすると以下の式①で求めると。
O2(μM)=1/4×n×0.0202×106/(v-1) ・・・式①
- 1表層
O2=1/4×2.870×0.0202×106/(96.530-1)
=151.7167382
∴152μM
以下同様にして、St.1底層からSt.6底層までを求めていくと、
- 1底層
O2=1/4×1.990×0.0202×106/(96.306-1)
=105.444568
∴105μM
- 2表層
O2=1/4×3.134×0.0202×106/(97.245-1)
=164.4417892
∴164μM
- 2底層
O2=1/4×0.928×0.0202×106/(99.719-1)
=47.47211783
∴47.5μM
- 3表層
O2=1/4×3.172×0.0202×106/(100.179-1)
=161.5120136
∴162μM
- 3底層
O2=1/4×2.194×0.0202×106/(98.767-1)
=113.3276054
∴113μM
- 4表層
O2=1/4×2.872×0.0202×106/(101.273-1)
=144.6411297
∴145μM
- 4底層
O2=1/4×1.293×0.0202×106/(101.986-1)
=64.65896263
∴64.7μM
- 5表層
O2=1/4×3.029×0.0202×106/(104.202-1)
=148.2185423
∴148μM
- 5底層
O2=1/4×1.368×0.0202×106/(104.772-1)
=66.57287192
∴66.6μM
- 6表層
O2=1/4×1.734×0.0202×106/(101.293-1)
=87.31117825…
∴87.3μM
- 6底層
O2=1/4×0.978×0.0202×106/(97.925-1)
=50.95589373
∴51.0μM
-
栄養塩濃度測定結果
PO43-の濃度を求めるための基準となる検量線の回帰式は、グラフ①のようにグラフを作成し求められていた。その式は以下の式②の通りである。
吸光度=0.0211×(濃度μM)-5-5 ・・・式②
グラフ① 基準となる吸光度とPO43-濃度の関係
実際に計測した6倍希釈のPO43-濃度と換算した実際のPO₄³⁻濃度、吸光度は以下の表③の通りであった。
(表③) |
濃度(μM) |
実際の濃度(μM) |
吸光度 |
|
ブランク St.1~St.3 |
0.011 |
0 |
-0.000 |
|
St.1 |
表層 |
0.718 |
4.242 |
0.015 |
底層 |
1.102 |
6.546 |
0.023 |
|
St.2 |
表層 |
3.480 |
20.814 |
0.074 |
底層 |
3.368 |
20.142 |
0.071 |
|
St.3 |
表層 |
2.481 |
14.82 |
0.052 |
底層 |
1.546 |
9.21 |
0.033 |
|
ブランク St.4~St.6 |
0.013 |
0 |
0.000 |
|
St.4 |
表層 |
2.872 |
17.154 |
0.060 |
底層 |
1.293 |
7.68 |
0.027 |
|
St.5 |
表層 |
3.029 |
18.096 |
0.063 |
底層 |
1.368 |
8.13 |
0.029 |
|
St.6 |
表層 |
1.734 |
10.326 |
0.036 |
底層 |
0.978 |
5.79 |
0.020 |
【考察】
St.1とSt.2は、芝浦水再生センターの排水溝であった。(写真②)
(写真②) St.1の採水点
そこでのセンサーによる水温を見ると、表層の水温が他の採水点と比べて高くなっており、底層は低くなっているとわかる。上下の温度差が非常に大きくなっていた。また、塩分を見ると、底層の塩分は表層の塩分の4~5倍程度になっている。これは、暖かく塩分の低い水が排出されることで、比較的冷たく、塩分の高い海水が下に潜り込む構造になっていると考えられる。
St.1の表層は、リン酸塩の濃度が、底層より低くなっている。塩分の低い軽い水は、重い海水の上に行くことを考えると、芝浦水再生センターで処理された再生水は、リン酸塩などの栄養塩を取り除かれ、放出されていたと考えられる。
また、勢いよく再生水が放出されている様に見えたSt.2では表層、底層ともにリン酸塩の濃度が高くなっていることから、放出されている再生水は、リン酸塩などの栄養塩を取り除くことなく放出していたと考えられる。また、表層での光合成による分解では処理しきれていないと、底層のリン酸塩濃度が高く、DO濃度が低いことから推測できる。
St.3では、底層の塩分も他の採水点の半分程度だが、表層より2.5倍程度の濃さがある。また、水温も表層より底層のほうが約2℃程度低くなっていることから、塩分を多く含み、温度の低い海水が底層に潜り込んでいると考えられる。また、表層でのリン酸塩の濃度が底層では6割程度になっていることから、表層での光合成が活発に行われていたことが考えられる。
滴定で求められた表層のDO濃度(横軸)とPO₄³⁻濃度(縦軸)にしてStごとに散布図に表わすと、以下のグラフ②の通り、
グラフ② 表層のDO濃度とPO₄³⁻濃度の関係
グラフ②より、PO₄³⁻の濃度が高いほどDO濃度が高くなる傾向があると考えられる。これは、活発に植物プランクトンが光合成しているからであると考えられる。
滴定で求められた底層のDO濃度(横軸)とPO₄³⁻濃度(縦軸)にしてStごとに散布図に表わすと、以下のグラフ③の通り、
グラフ③ 底層のDO濃度とPO₄³⁻濃度の関係
St.1以外の採水点においてリン酸塩濃度が表層より低く、DOも表層と比べて低下していることから、表層での光合成によってPO₄³⁻が有機物に固定され濃度が薄くなったと考えられる。また、St.1においては、下水処理場でリン酸塩が取り除かれているために、底層に沈み込んでいる重たい海水にもともと含まれていたPO₄³⁻の濃度の方が濃くなり、他の採水点と違い表層と底層が逆転したリン酸塩の濃度をえたものと考えられる。St.2は、再生水を放出していた排水溝があり、またリン酸塩を取り除かず排水していたと考えられる。そのため、大量の栄養塩が放出され、光合成により有機物にすることができず、表層と底層のPO4³⁻濃度に大きな変化が見られなかったのだと考えられる。
PO₄³⁻1モルにつき、酸素は、138モル放出されることを用いて、どのくらい活発な光合成が行われているのかを考える。PO₄³⁻の濃度(表層-底層)の変化量と測定された表層でのDO濃度、PO₄³⁻濃度の変化量を用いてレッドフィールド比により求められるDO(RDO)、表層のDO濃度とレッドフィールド比によって求められたDO濃度の差を次の表④に示す。
(表④) |
PO₄³⁻(μM) |
DO(μM) |
RDO(μM) |
RDO-DO(μM) |
St.1 |
-2.304 |
152 |
-317.952 |
-469.952 |
St.2 |
0.672 |
164 |
92.736 |
-71.264 |
St.3 |
5.61 |
162 |
774.18 |
612.18 |
St.4 |
9.474 |
145 |
1307.412 |
1162.412 |
St.5 |
9.966 |
148 |
1375.308 |
1227.308 |
St.6 |
4.536 |
87.3 |
625.968 |
538.668 |
レッドフィールド比によって求めたDO(RDO)の値が小さい場合(St.1,St.2)においては、本来の光合成による有機物の生物生産能力が発揮されていないと考えられる。また、値が小さい場合(St.3、St.4、St.5、St.6)では、本来行われるであろう光合成の能力よりも過剰に有機物を合成していると考えられる。
St.1においてはPO₄³⁻の濃度が表層のほうが薄く、底層のほうが濃いため、下水処理場のリン酸塩を取り除いたということだけではなく、過剰に光合成しすぎたとも考えられる。また、St.2においても、DOがRDOより多いことから光合成により過剰な有機物合成が行われていると推測できる。
その他のSt.3~St.6は、PO₄³⁻の減少量よりも、DOのほうが少なく、光合成する余地がまだまだあると考えられる。しかし、レッドフィールド比に近い割合で光合成をおこなっているが、動物プランクトンや魚が表層に多く生息しているため、表層でのDO濃度が低くなっていることも考えられる。
センサーで求めた塩分を横軸、PO₄³⁻濃度を縦軸にして散布図に表わすと、以下のグラフ④の通り、
グラフ④ 塩分とPO₄³⁻濃度の関係
グラフ④より、塩分が高くなるほどリン酸塩の濃度が低くなると考えられる。また、塩分が高い採水点は、そこの方に集中しており、表層でリン酸塩が消費されてから沈み込んでいることが推測できる。
採水を行っている際に小雨が降っている時間帯もあったため、表層の塩分が薄まってしまったため、表層の塩分が薄い結果になっているとも考えられる。
また、St.1やSt.2も、下水処理場の影響がなければ他の採水点と同じ結果が得られたと思がわれる。
【まとめ】
したがって高浜運河では、表層に栄養塩豊富な塩分の少ない水が流れ込み、塩分が高く重たい海水がその下へ滑り込むという構造になっていると推定できる。また、表層では活発に光合成が行われており、生元素はどんどん有機物に変換され底に沈んでいると考えられる。