コロイドはどのような状態であるのか、それが分子やイオンと異なるどのような物性を持つのか。自然のサイクルの中にコロイドが深く関係していることを日本人の何人が知っているだろうか。
子供のころ、海浜に砂鉄採集に行っていた経験はないだろうか。これは、コロイドになって沈殿しているから河口に近い海浜でたくさん採取できていたのだ。
また、河川から流れ出した有害な物質の多くはコロイドとして沈殿し、海に流れ込まないようになっている。しかし、水俣病など、人間の有機物を排出する量が、自然の浄化作用を超えたときに環境破壊など、問題が発生してしまう。人間が自然に勝つことはできないといわれるが、これは人間が自然の力を超越した例であると考える。
- 【実験に使用した器具】
- 【実験に使用した薬品】
- 【実験方法】
- 【結果】
- 実験1
- 実験2
- ・実験3
- 実験4
- 実験5
- 実験6
- 実験7
- 実験8
- 鉄の濃度はどのくらいか。
- 透析水と硝酸銀溶液によって起こる反応を示せ、さらに、陽イオンとして析出しているイオンは何か。これを検出するためには、何を用いればよいか。
- 50 mlのメスフラスコに3 mol/Lの塩化カリウム溶液を作るためには何グラムの塩化カリウムが必要か。
- 実験3の各混合溶液の塩化カリウムの濃度を計算する。
- 50 mlのメスフラスコに4×10⁻³ mol/Lの硫酸カリウム溶液を作るためにはどのような作業が必要か。硫酸カリウムの式量を3とする。
- イオンクロマトグラフィー以外の陰イオン定量法を示す。
- 以下の表と海水中の鉄の濃度を調べて、今回実験した結果から、河川の河口域で起こっているコロイド物質の沈殿についてまとめる。
- 凝析と塩析について
- イオンクロマトグラフィーについて。
【実験に使用した器具】
試験管、5 mlホールピペット、50 mLメスフラスコ、250 mLメスフラスコ、500 mLメスフラスコ、50 mLビーカー、300 mLビーカー、500 mLビーカー、セルロースチューブ、U字管、安全ピペッター、温度計、薬さじ、電極、レーザーポインター、電子天秤、直流電源、など
【実験に使用した薬品】
塩化鉄(Ⅲ)6水和物、塩化カリウム、硫酸カリウム、硝酸銀溶液
【実験方法】
実験1 水酸化鉄(Ⅲ)のコロイドの調整
- 塩化鉄(Ⅲ)6水和物 6 gを蒸留水 2 mlに溶かした。
- 300 mlビーカーに加熱していた蒸留水150 mlを量り取った。
- そこへ、水酸化鉄(Ⅲ)溶液を、駒込ピペットを用いて一滴、一滴滴下し、加水分解反応させコロイド溶液を生成した。
実験2 透析
実験Ⅰで生成したコロイド溶液には加水分解で生じたイオンが含まれているため
- 500 mlビーカーに蒸留水400 mlをとり、約60 ℃に温めた。
- 水酸化鉄(Ⅲ)コロイド溶液を温かい地に透析用セルロース膜に入れ、60 ℃の蒸留水に10 分間浸した。
- 10 分後に、セルロース膜の袋を取り出し、ビーカーの透析水を駒込ピペットで試験管に1 ml取った。
- 新しく500 mlビーカーに蒸留水400 mlをとり、同様の操作を繰り返し、透析を行た。
- 三回目の透析水は1 mlを採水した後に、別の試験管に満杯に採水した。
- 透析を行ったコロイド溶液を300 mlビーカーに移した。
- 試験管に1ml採水した物には蒸留水10 mlを加えた。
- 採水した4 本の試験管に硝酸銀溶液を10 滴加えた。
実験3 凝析
- 試験管5 本に3 mol/Lの塩化カリウム溶液をメスピペットを用いて、1、2、3、4、5 mlは借り入れた。
- そこに蒸留水を4、3、2、1、0 ml加えて、各試験管に5 mlずつ入れた試料を作った。
- それに実験2で透析したコロイド溶液をホールピペットを用いて5 mlずつ加えた。
- 同様にして、塩化カリウムの代わりに硫酸カリウム溶液(4×10⁻³ mol/L)を使用して溶液を作成した。
実験4 電気泳動
- 実験2で析出したコロイド溶液を三倍希釈し、これに重量の5 %のグルコースを加えた。
- その液を、駒込ピペットを用いて、両端に4 ㎝の未充填部分ができるようにU時間に入れた。
- 両端の未充足部に透析水をそれぞれ深さ約2 cmとなるようにまで静かに加えてはっきりとした境界面を作った。
- その透析水の透明部分に電極を挿入し、60 Vの直流電流をかけ、10 分ごとに30 分間コロイド溶液の透析水との境界面を観察した。
実験5 チンダル現象の観察
- レーザーポインターを用いて、鉄コロイド溶液のチンダル減少を観察した。
実験6 イオンクロマトグラフィー
- 注射器を透析水で2 回共洗いした。
- 注射器に気泡が入らないようにして透析水を吸い込んだ。
- 注射器を機械に差し込み、透析水を注入した。
実験7 塩析
- ゼラチン5 gを500 mlの加熱した蒸留水に溶解させた。
- そこに、硫酸ナトリウム溶液を少しずつ過剰に加えた。
実験8 浸水コロイドの保護作用
【結果】
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実験1
塩化鉄(Ⅲ)6水和物を0.6000 g量り取り、ビーカーに入れた。
その後、薬包紙の重量は、0.0092 gであった。したがって、ビーカーに入れた塩化鉄(Ⅲ)6水和物の全量は、0.5908 gであった。
-
実験2
以下に、硝酸銀水溶液を加えた後の写真①を載せた。
写真① 硝酸銀水溶液を加えた後の透析水
写真①は、右から、1 回目の透析水に蒸留水を10 ml加えたもの、2 回目の透析水に蒸留水を10 ml加えたもの、3 回目の透析水に蒸留水を10 ml加えたもの、3 回目の透析水原液であり、3 回目になるにつれて硝酸銀溶液と反応して生成した沈殿物が減少していることが、透明に近づいて見えることから分かった。また、3 回目の透析においてもコロイド溶液に入っていたイオンが出てきていたことが分かった。
・実験3
鉄コロイドは以下の写真②のような沈殿を生成した。黄色いラベルが硫酸カリウム溶液を使用した試験管であり、白いラベルが塩化カリウムを使用した試験管である。また、試験管の番号は、加えた硫酸カリウム溶液と塩化カリウム溶液の量(1 ml、2 ml、3 ml、4 ml、5 ml)を表している。
写真② 凝析を行った結果
写真②の通り、硫酸カリウム、塩化カリウムを5 ml入れている⑤番の試験管から、少ない①番の試験管に行くにしたがって沈殿の量が減少していることが分かった。
また、塩化カリウム溶液(3 mol/L)と硫酸カリウム溶液(4×10⁻³ mol/L)で、濃度が低い硫酸カリウムを使用した方が、沈殿を多く生成しており、沈殿を生成する能力は、硫酸カリウムの方が高いことが分かった。
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実験4
時間がたつにつれて、陽極側に黄色いコロイド希釈溶液部分が引き寄せられていった。また、陰極から気泡が発生した。
以下に10 分の時間経過ごとのU字管の試料の変化を撮影した写真③~⑤を示した。
写真③ 10 分後
写真④ 20 分後
写真⑤ 30 分以上経った後
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実験5
以下の写真⑥に示すように、コロイド溶液の中にレーザー光による直線が観察された。
写真⑥ チンダル現象
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実験6
イオンクロマトグラフィーによる3回目の透析水の塩素イオンを計測した結果を以下に示す。
写真⑦ 3回目の透析水の測定結果
基準となる試料水の塩素イオンのAREAは830304であり、濃度は7.9983 ppmであった。実験で測定されたAREAは8212048であった。これと比をとることで、実験で測定した試料の塩素イオンの濃度(x ppm)を以下の通り求めた。
830304:7.9983 = 8212048:x
7.9983 × 8212048 = 830304 × x
X = 79.10647…
塩素イオンの濃度は∴ 79.106 ppmであった。
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実験7
ゼラチン溶液を少しの量を入れると白く濁ったがすぐに透明になった。しかし、さらに多くの量を入れると沈殿を形成した。
次のページに、ゼラチン溶液を多量に入れた様子を写真⑧で示した。
写真⑧ 塩析
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実験8
実験には、塩化カリウム溶液、硫酸カリウム溶液をそれぞれ、1 mlと5 mlを入れた試験管を使用した。実験3で観察したような沈殿を観察することはできなかった。以下に結果の写真を示した。黄色いラベルが硫酸カリウム溶液、白いラベルが塩化カリウム溶液を使用した試験管である。
両方のコロイド溶液とも沈殿を生成しなかった。
写真⑨ ゼラチン溶液を加えての塩析
鉄の濃度はどのくらいか。
塩化鉄(Ⅲ)6水和物を0.6 g量り取った。塩化鉄(Ⅲ)6水和物の式量は270.3 g/mol、水のモル質量は18.02 g/mol、鉄の式量は162.22 g/molであることから塩化鉄(Ⅲ)のみの重さは、
∴0.36 gの鉄が入っている。
蒸留水は、2 mlと150 mlを加えた。したがって溶媒の量は152 mlである。したがって、質量パーセント濃度は、
∴鉄の質量パーセント濃度は0.24 %であった。
透析水と硝酸銀溶液によって起こる反応を示せ、さらに、陽イオンとして析出しているイオンは何か。これを検出するためには、何を用いればよいか。
透析水に入っているイオンは、塩化鉄から出る、塩化物イオン(Cl⁻)および鉄イオン(Fe²⁺)である。したがって硝酸銀水溶液との反応で起こる反応は、
Cl⁻ + Ag⁺ = AgCl
であり、塩化銀(Ⅰ)が沈殿した。
陽イオンとして鉄イオンが溶解していると考えられる。したがって、水酸化ナトリウム水溶液を多量に入れることで赤褐色の酸化水酸化鉄(Ⅲ)の沈殿が生成し、検出することが出来る。
50 mlのメスフラスコに3 mol/Lの塩化カリウム溶液を作るためには何グラムの塩化カリウムが必要か。
以下の式で求めることが出来る。塩化カリウムの式量を74.6とすると、
∴11.2 gの塩化カリウムを溶かせばよい。
実験3の各混合溶液の塩化カリウムの濃度を計算する。
- 1 ml入れたとき、以下の式の通り求めることが出来る。
3×1÷1000×74.6÷(1+4+5)×100 = 2.238
したがって、塩化カリウムの濃度は2.24 %であった。
同様にして計算すると、
であった。
50 mlのメスフラスコに4×10⁻³ mol/Lの硫酸カリウム溶液を作るためにはどのような作業が必要か。硫酸カリウムの式量を3とする。
∴0.0349 gの硫酸カリウムを蒸留水に溶かせばよい。
イオンクロマトグラフィー以外の陰イオン定量法を示す。
以下の表と海水中の鉄の濃度を調べて、今回実験した結果から、河川の河口域で起こっているコロイド物質の沈殿についてまとめる。
海水1 kg中に、鉄は約0.000030 mg入っている。海水1 Lを1 ㎏と近似すると、0.000030 mg/Lと考えられる。すると、河川の鉄の濃度は海洋よりも約1000 倍以上高いところがほとんどであった。
鉄は、疎水コロイドであり、海水の塩分と混ざることで沈殿する。このことによって三角洲などが河口域に、生成されることが多いと知った。そこで、河口域がどのような地形であるかを、グーグルアースを用いて調べた結果を以下の表に示した。
河川 |
pH |
Fe濃度(mg/L) |
河口域の地形(グーグルアース) |
7.1 |
0.14 |
護岸工事が施されているが、三角洲に近いものが確認できた。 |
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6.5 |
0.70 |
三角洲のようなものは確認できないが、河口から放射状に何かしらの沈殿があるように観察できた。 |
|
6.4 |
0.09 |
新潟港として開発されているが、信濃川の流れが港から出たところに沈殿物があるように海色が観察できた。 |
|
6.5 |
0.18 |
堆積物や海底の砂によって砂洲が形成され、河口をふさぎつつあった。わずかに開いている部分から海にそそぐ河川水には、沈殿物と思わしき部分は観察できなかった。 |
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7.0 |
0.04 |
河口部は、堆積物が多く非常に浅くなっていることが観察された。 |
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7.3 |
0.14 |
河口部に三角形の砂などが堆積した三角洲のようなものが観察できた。 |
|
7.1 |
0.02 |
河口部に砂洲のような形状の砂の塊を観察することが出来た。川から海に出たところには、扇型のように沈殿物の範囲が広がっているように観察できた。 |
|
紀ノ川 |
7.1 |
0.03 |
河口より少し手前で川の中に沈殿があるように観察できた。和歌山湾の中に沈殿物が堆積していると見受けられる場所は観察できなかった。 |
6.9 |
0.13 |
河口域に砂洲のようなものが観察された。また、海に近づくにつれて何か氏らの堆積物があるように見受けられた。 |
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2.5 |
4.71 |
最上川との合流地点を観察すると、酸性河川の須川の河川水は非常に白く濁っていた。最上川と河川水が混合した地点から、白濁した懸濁物質が流れていることが観察でき、最上川の河川水の色が変色していることが観察できた。 |
以上の表①より、pHの低い河川ほど懸濁させる物質、沈殿物が多いように観察できた。また、溶存している鉄分が多い須川では、他の河川より明らかに河川を懸濁させる沈殿物のようなものが最上川との合流点で観察できたが、その他の河川の河口域では沈殿物の量など大きな違いを確認することは、グーグルアースでは難があった。
凝析と塩析について
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塩析
タンパク質や低分子有機化合物などの溶質が高濃度の塩の溶液には溶解しないという性質を利用し、それらを分離・精製する方法である。親水コロイドに多量の電解質を沈殿するまで加える操作を行うことが塩析である。
タンパク質分子中には疎水性アミノ酸と親水性アミノ酸があり、水溶液中で疎水性アミノ酸は通常、親水性アミノ酸によって保護された疎水域を作り溶解している。また、タンパク質の表面が十分に親水性ならばそのタンパク質は水に溶解する。塩濃度を大きくしたとき水分子のいくつかは塩のイオンによって引きつけられ、タンパク質を溶解させていた水分子の量が減少する。この結果、近くのタンパク質が引き合い疎水性の相互作用によって凝結し沈殿する。
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凝析
凝析は、分散質粒子同士が吸着集合して沈降する現象である。一般に、分散質粒子は表面張力と同義の、分子間力の総和にあたる粒子間ファンデルワールス力引力を普遍的に有す。一方、分散質粒子の表面には組成と溶媒の極性の差による電位差が存在しているため、粒子が接近すると浸透圧斥力が生じ、粒子の凝集が妨げられ分散系は安定化している。親水コロイドの場合、疎水コロイド同様に表面電荷を持つとともに、水和により多数の水分子が配位しており、その立体斥力によってさらに強く反発し安定化する。保護コロイドは、表面にタンパク質等が吸着し、表面電位が変化し安定化している場合もある。その安定を、電解質を加えることで崩し、凝結させることである。疎水コロイドに少量の電解質を沈殿するまで加える操作が凝析。
イオンクロマトグラフィーについて。
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原理
試料注入部から注入された試料は、溶離液によってカラムに運ばれ、イオン交換樹脂が充てんされたカラムでイオン成分の分離が行われる。
試料中のイオンは、一旦、カラム内のイオン交換樹脂に保持されるが、溶離液によって流されカラム内を移動していく、その時、イオンの価数、イオン半径、疎水性などの性質の違いによりカラム内を移動する速度が異なるため、カラムを通過する間にイオン成分が分離されていくことになる。
そして、カラムから溶出したイオン成分と溶離液はサプレッサーに入り測定イオン成分の感度を高め、溶離液のバックグラウンドを低下させて測定感度を向上させた後に、検出器で測定される。
陰イオン分析の場合は、サプレッサー内で「陽イオン→水素イオン」の交換が起こり、水素イオンは伝導率が高いため、測定目的陰イオン成分の対イオンが水素イオンになることで陰イオン成分の感度を上げる。
-
利点
イオンクロマトグラフィーでもっとも多く使用されている検出器は電気伝導度検出器である。電気伝導度検出器では、検出器セル内の電極間を通過する液中でイオン化している成分のみを検出することが出来る。
電気伝導度検出器は、イオン成分のみを検出するためイオン分析には非常に適した検出器である。しかし、測定目的成分だけでなく溶離液自体も解離しているため、溶離液が高い電気伝導度を示します。そのため、溶離液のバックグラウンド電気伝導度が高いとノイズが高くなり、高感度分析が難しくなってしまうが、電気伝導度検出器の前にサプレッサーを取り付けて溶離液の解離を抑制することで、溶離液のバックグラウンド電気伝導度を低下させることができる。
この検出器で検出される電気伝導度とは、検出器のセルを通過する溶液中の陰イオンと陽イオンの伝導率の和であるから、陰イオンを測定する場合においても、その対となる陽イオンの伝導率が高いのならば、陰イオンの測定感度が上がる。